中学受験にチャレンジする小学6年生は、合格のために志望校の過去問に取り組む必要があります。多くの受験生が志望校の過去問を解くことによって、合格を勝ち取っているのは間違いありません。ただ、過去問の取り組み方を間違えてしまうと合格につながらないこともありますので注意が必要です。
今回の記事では、中学受験生と25年以上一緒に学習してきた経験から、算数の過去問に取り組む時期や目的、具体的な取り組み方、注意点を説明します。ぜひ過去問の取り組み方のポイントをつかんでいただき、合格への一歩を踏み出していただければと思います
過去問に取り組む時期|6年生のいつスタート?5年生では早すぎる!
志望校の過去問に着手する時期は、家庭教師や塾講師のあいだでも意見が分かれることがあります。そのためか、「早く難しい問題を解かせなければ!」と考えて、小学校5年生のうちから取り組ませてしまう親御さんがいるようです。
筆者としては、合格のために過去問をはじめるのに最適な時期は、6年生の8月半ば以降だと考えています。
中学受験算数を本格的に学びはじめるのは小学4年生(実際には3年生の2月)です。小学6年生の8月半ばまでは約2年半あります。すべての単元をマスターして、入試問題に取り掛かることのできる力(すらすら解ける力ではありません)がつくまでに、一般的にこれぐらい時間は必要なのです。実際、多くの中学受験塾で6年生の夏期講習までに入試問題を解くのに必要な解法・知識を身につけられるようなカリキュラムが組まれています。
そうだとは言え、6年生の8月は塾のテキストの復習に追われている時期でもありますよね。塾の復習が優先ですから、復習で手一杯であれば過去問は9月以降のスタートでも構わないと思います。
逆に、少し余裕があるのであれば8月中の休講日、休校日に一つだけでよいので過去問に取り組んでみてください。この時期は、まだ志望校の過去問でなくても構いません。塾や家庭教師から指定されているものがあれば、その問題に取り組みましょう。9月を迎えるのに大切なことは「解き方を学ぶ」モードから「点数をとるための学習」モードへの切り替えです。
「今まで習ってきたことをどのように使えば点数を取れて合格できるのか」
「時間との戦いの中でなにを捨ててなにを得ていけば合格できるのか」
8月中に過去問に取り組むことで、こうしたモードチェンジ・意識の切り替えを期待できます。
過去問に取り組む3つの目的|できる・できないよりも大切なこととは
中学受験生が過去問に取り組む目的は、そもそもどのようなことでしょうか。
志望校の出題傾向を知る
過去問に取り組むもっとも大切な目的は「志望校の出題傾向の把握」です。
6年生の夏までは、すべての単元をみんなが同じように網羅的に学習してきました。しかし、9月以降は各自の志望校の出題傾向に合わせた学習が必要になってきます。過去問を解くことによって、「頻出単元はどこか」や「どんな難易度のものが出題されるか」を把握して、日々の学習にフィードバックしましょう。
たとえば、志望校の過去問で毎年のように「立体の切断」に関する問題が出題されているのであれば、この単元の学習を強化する必要があります。「速さ」に関する問題でも、線分図を書けば解けるタイプのものなのか、ダイヤグラムを書く難易度の高い出題があるのかを把握すれば、「塾のテキストのどの部分を学習するのか」「どのくらいの難易度まで学習すべきか」といったことが見えてきます。
時間配分の練習と問題の取捨選択
「時間配分の練習と問題の取捨選択」も過去問に取り組む、大切な目的です。
試験時間は学校によって異なりますし、問題数も違います。「40分なのか60分なのか」「問題数が時間に対して多いのか少ないのか」といったことを、過去問の練習でつかんでいきます。
「どのくらいのスピードで解けば合格点がとれるのか」「どの問題は捨てて、どの問題で得点すれば時間内に合格点に達するのか」などを把握する意識を持ちながら取り組むといいですね。
学校ごとの細かい注意点を頭に入れる
学校ごとに細かい注意点がある場合があります。
- 単位まで自分で書く
- 分数は必ず帯分数で書く
- 途中式を必ず書く
たとえばこうした学校独自の注意点を頭に入れるのも、過去問に取り組む大切な目的です。
過去問に取り組む準備|過去問題集以外に用意するべきものは?
志望校の過去問は早めに購入しておきましょう。書店で販売されている学校ごとの過去問題集で構いません。また、各学校の説明会や文化祭に行かれた際には、過去問の実物が販売されていないか確認してみてください。もし販売されていれば、実際の問題用紙や解答用紙を確認できるので、購入しておくことをお勧めします。解答用紙はホームページからダウンロードできるようになっている学校も増えています。確認しておきましょう。
実物以外の過去問は、解答用紙を実際の大きさに合わせて拡大コピーする必要があります。過去問集に拡大する際の比率なども書いてありますので、それにしたがって拡大コピーします。
問題用紙もコピーしてあげてください。できれば冊子形式になるように、コピーして綴じてあげられるといいですね。
また、どの学校の何年度の過去問にいつ取り組むのかがわかる「予定表」と取り組んだ日付や点数を書き込む「進捗状況表」を用意しましょう。綺麗な表である必要はないので、手書きでも構わないと思います。
もう一つ、学校・教科ごとに過去問用のノートを用意しましょう。過去問集の問題用紙は紙面の都合上、余白がかなり限られています。解くときにはノートを用意して、ノートに計算式や図などを書き込めるようにしてあげましょう。
補助線などをたくさん書き入れて考える難易度の高い図形の問題が出題される学校であれば、図形問題のみ大きく拡大してノートに貼り、書き込みがしやすくしてあげるようにするといいでしょう。
解き終わった後の直しや振り返りも、この過去問用ノートを使ってください。お通いの塾の先生や家庭教師の先生に提出してアドバイスをもらうときにも、ノートにまとめられているといいですね。
具体的な取り組み|取り組む年度数・回数は?週にどれぐらいのペース?所要時間は?
過去問の具体的な取り組み方を紹介します。
何年分・何回分の過去問に取り組むべきか
取り組む過去問の年度数、回数は以下を目安にするといいですね。
- 第一志望校…過去問題集に掲載されているすべての問題(10回分前後)
- 第二志望校…5年分(5回分)以上
- 第三志望校…3年分(3回分)
- 第四志望校…1年分(1回分)
ただし、これはあくまでも目安です。第一志望校と第二志望校の志望度合いがほとんど変わらないようであれば8年分ずつを目安にし、第三志望校がお子さんの実力では余裕がある学校であれば1回に減らしたうえで、第一志望の回数を増やすなど、それぞれの志望校とお子様の状況によって調整してください。
迷うようでしたら、お通いの塾の担当の先生や、習っている家庭教師の先生などに相談しましょう。
どれぐらいのペースで取り組むべきか
志望校の過去問には、9月から1週間に1回分のペースで取り組みましょう。祝日などがあれば、その週は2回分取り組むのもいいですね。通常は冬期講習前までで終わらせるイメージで考えていきます。
9月から12月25日までとして約16週間ありますから、祝日には追加で取り組んだとして20回分は取り組めるはずです。これで先ほどお伝えした「第一志望10回、第二志望5回、第三志望3回、その他1回」が終えられることになります。
所要時間はどうするべきか
必ず実際の入試の時間と同じ時間で取り組みましょう。時間内での問題の取捨選択などの感覚をつかむためにも、時間は守って取り組んでもらってください。
取り組んだ過去問の解き直しについて|優先順位をつけて効果の高い復習を
取り組んだ後は、なるべくその日のうちに直しをしましょう。解き直しの優先順は以下のようにしましょう。
- まちがえた問題のなかで「これは正解できたはずだ」と思う問題を解き直す
- 「少しヒントがあれば解けそう」と思われる問題の解説を読んで理解できたら、解説を見ないで解き直す
- 「問題の意味もわからず、解説を読んでも理解できない」問題は直しをしなくてよい
問題の意味もわからず、解説を読んでもわからない問題を塾の先生に質問するのは、あまり効果を期待できません。そのような問題は、残り数か月のあいだに一人で解けるようにはならない可能性が高いからです。その問題を解けなくても、合格ラインには届きそうであれば潔くその問題からは手を引きましょう。
直しが終わったら、お子さん自身の言葉で振り返りを書いてもらいましょう。
「角度の問題はとても難しいので、後回しにすればよかった」「簡単な問題で失点してしまった。次は見直しをしながら進めよう」「後半の速さの問題は図を書けば解けるので先に解けば良かった」など、過去問に取り組むなかで気づいた点を書いていきます。そして、次の週の取り組みの前に、以前に書いた振り返りのメモを読んでから始めましょう。少しずつ自分の弱点を克服できるようになります。
こうして書き溜めた振り返りを入試直前にまとめ、そのメモを入試当日に持参します。自分オリジナルの志望校合格マニュアルとなり、大きな助けになります。
筆者の子が書いた自分だけの志望校対策ノートを公開します
注意点
過去問に取り組むときの注意点を紹介します。
合否を占う目的に使わない
過去問に取り組む目的に「合格するかどうか見極める」という目的はありません。
過去問を始めるとついつい点数に目がいってしまい、「これなら合格しそうだ」あるいは「こんな点数では合格できない」など「合否を占う」ようなことをしがちです。しかし、ご家庭で取り組む過去問は合否を判断する材料にはなりません。
併願戦略を決める際には模試のデータを参考に、お通いの塾の先生や習っている家庭教師の先生などと普段のお子様の様子を加味しながら決定していきましょう。
過去問の点数で一喜一憂していると、本来の目的を見失ってしまいます。
「どんな単元が頻出で、それを本番までにどう仕上げるのか?」「問題の取捨選択は正しくできているか?」など、あくまで合格に向けて進んでいくための道しるべとして使っていきましょう。
特に9月や10月に取り組む過去問では受験者平均にも到達できないことが多くあります。そんなときに「こんな点数では到底受からない」などと思ってしまっては、なんのために過去問に取り組んでいるのかわからなくなってしまうばかりか、過去問の取り組みがマイナス要素として働いてしまいかねません。筆者が担当した生徒さんの中にも、1月になってやっと合格最低点に届いた生徒さんで合格を勝ち取った生徒さんがたくさんいます。
過去問は合否を占うために実施するのではないことをしっかりと心にとめておいてください。
模範解答は、必ず保護者が保管する
過去問の出来不出来は、受験生本人にとっても気になるところです。「合格できる点数にしたい!」と強く思うあまり、答えを写してしまう生徒さんも少なくありません。解答については必ず、お子さんが見られない場所に保管してあげてください。弱い気持ちになったときにも、解答という誘惑がなければ、自分の力でなんとかしようと思うはずです。「うちの子に限ってそんなことはしない」と思わずに、念のため解答解説は親御さんが保管しましょう。
まとめ
過去問は「学校からのメッセージ」と言われています。その学校はどんな生徒さんに入学して欲しいと思っているのか、入学前にどんな姿勢でお勉強に取り組んできて欲しいのかが、入試問題からわかります。過去問の取り組みは、志望校との最初の接点です。学校が出すメッセージをつかんで、必要な勉強をしていけるようにお子さんをサポートしてあげてください。
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