「基礎力トレーニング(基礎トレ)」とはサピックスに通う受験生が取り組むように指示されている問題集です。名前の通り、基礎力の養成が目的とされています。最難関校合格者の合格体験記でも、しばしば「基礎トレは毎日欠かさず取り組みました!」「基礎トレが大事です!」というコメントをみかけますね。
今回はサピックスの算数科講師として多くの受験生と一緒に学習してきた経験から、コツコツ取り組むと効果抜群の基礎トレの取り組み方のポイントをお伝えします。
基礎トレの効果は3つ
まず、基礎トレに取り組むとどのような効果が期待できるのでしょうか。
計算力向上|毎日取り組むことで自然と得点力が上がる
学年によって異なりますが、基礎トレには2~4問程度の計算問題が含まれています。単純な四則計算(たし算、ひき算、かけ算、わり算)の技術を上げるだけでなく、さまざまな計算の工夫が学べ、毎日取り組んでいけば自然と計算問題の得点力が上がっていきます。
ただし、最難関校で出題される「技術がないととても手間がかかるが、技術があれば短時間で処理できる」といった高難易度の計算問題については、基礎トレだけでは対策が不十分です。さらに難易度の高い計算問題への対応力は志望校別プリントで対策していきましょう。
基礎的解法力の定着|平常授業を基礎トレで復習する学習設計
基礎トレはサピックスの算数の授業で習う内容の基礎的な部分が、忘れたころに絶妙なタイミングで出題されます。きちんと取り組むことで「復習のスパイラル」が完成するように構成されているのです。
「B授業で習う→次週のA授業で復習する→デイリーチェックで確認する→さらに次の週の基礎力定着テストで再確認」という流れで学習した内容が、しばらくしてから基礎トレに掲載されて再々復習が促されています。このスパイラルに乗って力をつけていきましょう。
頭の準備体操|算数に対する感覚維持
スポーツ選手は、本格的なトレーニングをする前に準備体操をしますよね。また、本格的な練習をしない日にも、感覚が鈍ってしまわないように軽い運動を続けます。基礎トレにも、そんな準備体操のような効果があります。
毎日取り組むリズムをつけて、算数に対する感覚が鈍らないように基礎トレを有効活用していきましょう。
基礎トレの具体的な取り組み方
具体的にはどのように取り組んでいけばいいのでしょうか。
決まった時間に取り組みましょう
基礎トレは一日のうちのどの時間に取り組んでもOKです。ただ、毎日だいたい同じタイミングで取り組むことをお勧めします。目的は「習慣化のため」。習慣になったものは、そうでないものに比べて取り掛かるのに必要なエネルギーが少なくて済みます。
例えば、朝の登校前の時間。一日の始まりに、洗顔や歯磨きと同じように、やらないと気持ちが悪くなるくらい基礎トレを習慣にしてしまえば、そんなに頑張らなくても基礎トレを始められるようになります。「朝は基礎トレと漢字」などと決めている生徒さんも多いように思います。試してみてください。
また、夜、寝る前の時間でもいいと思います。朝学習は苦手な生徒さんも多くいらっしゃいます。無理して寝ぼけ眼でやって、間違いだらけで親子喧嘩勃発! なんてことになるなら、思い切って夜に取り組むのもいいと思います。とにかく一日の中で決まった時間に基礎トレに取り組むよう促してあげましょう。夜型パターンの場合も、入試1か月前には朝型に切り替えられるといいですね。
丸付けは可能な限り親御さんが担当しましょう
一人で取り組んで、一人で丸付けをして、間違えたところを直して……としっかり自立できるお子さんは稀です。中学受験生は小学生。間違えたところをさっと直して100点にしてしまったり、わからないところは答えを写して正解にしてしまったりと、まだまだ任せっきりにはできないものです。
可能な限り、丸付けは親御さんが担当してください。かわいい花丸や、応援コメントをつけてあげるのもいいですね。満点の時にはお気に入りのシールを貼るなど、親子で工夫すると毎日の基礎トレに楽しく取り組めると思います。
所要時間を記録しましょう
時間を記録する目的のひとつは「だらだら取り組む」のを防ぐことです。時間を計っているというだけで、途中で中断して席を立ってしまったりせず、集中してくれる生徒さんが多いように思います。また、同じパターンの問題が続く何日間かの所要時間がわかれば、だんだんと速く処理できるようになっていることがわかり、達成感もありますよね。
時間の目安は10分から15分です。ただし、あくまで目安です。速い生徒さんは5分もかからずに終えてしまいますし、6年生の基礎トレのように問題自体が難しくなってくると20分ほどかかっても不思議ではありません。
まずは「しっかり時間を計って記録する」ことを心がけてみてください。
また、計算ミスの多い生徒さんには「15分あげるから、見直しをして満点を狙おう!」という取り組み方も有効です。決められた時間を有効に使ってミスを防ぐ訓練はとても大事です。
必ずノートに解きましょう
基礎トレは必ずノートに解いてもらいましょう。4年生の初めの頃は、テキストの余白に少し数字を書くだけで解けてしまう問題も多く、それほどノートを必要としないかもしれません。しかし、4年生の後半からは式を書かないと、簡単に計算する工夫も見つけづらくなってきます。図形の問題も自分の手でノートに写して初めて、その図形の性質を理解できるようになるものも少なくありません。ミスを減らしていくためにも、思考の過程を目に見える形にして論理的な思考力を磨くためにも、「ノートに式や図を書きながら解く」ことを強くお勧めします。
4、5年生のうちはサピックスで販売されている「基礎トレノート」を使っている生徒さんが多いようです。ノートが区切られていて、問題番号ごとに分けて式を書けるのでお勧めです。どの問題の式がどこに書いてあるかわかれば見直しもしやすいですね。
ただ、私は6年生の生徒さんには「大学ノート」をお勧めしています。6年になると書かなければならない式が多くなってきます。また、問題の図形を自分で書き写して解かなければならない問題もでてきます。問題によって式の分量もバラバラです。サピックスの基礎トレノートのようにノートが等分されてしまっていると、かえって書きづらくなってしまうようです。
いずれにせよ、基礎トレの効果を最大限に発揮するには「ノートに式を書く」は必須になります。
できない日があったときの対処法
毎日やらなくてはいけないとわかっていても、学校行事でやれなかったり、病気でお休みしてしまったりと取り組みが滞ってしまうこともあると思います。その場合、多くの生徒さんがお休みしてしまった分とその日の分をまとめて一日でやろうとしてしまうようです。
基礎トレは何日か同じパターンの問題が続きます。数値を替えた問題で反復練習して、定着をはかっているわけです。したがって、その同じパターンの問題をまとめて同じ日にやっても、あまり学習効果は上がりません。
休んでしまったときのお勧めの対処法は、以下になります。
・1、2日分をお休みしてしまったとき…そのままおいておいてマンスリーテスト前に総復習する
・長めにお休みしてしまったとき…同じパターンの問題のなかから2日分ほどをピックアップして取り組み、理解できているようであれば他の分はやらずにおいておく
「毎日取り組む」が基本ですが、たまにお休みしてしまっても問題ありません。完璧主義に陥らずにコツコツ取り組んでもらいましょう!
わからない問題の対処法
基礎トレには「基礎」という言葉が入っていますが、サピックスの基礎トレにはかなり難易度の高い問題も組み込まれています。特に6年生になると、解き方がわからない問題があってもおかしくないほどのレベルになります。
お子さんが基礎トレで解き方のわからない問題に遭遇したら、まずは基礎トレの解説を読んでもらってください。同じパターンの問題の初回の手ごわい問題には解説がついています。その解説を読んで解き方を理解して、次の日からは同じパターンの問題を解説なしで解く練習をするといいですね。
解説を見ても理解が難しい問題は、塾の質問教室を利用して担当の先生に教えてもらうのが一番です。わからない問題を長い期間わからないままにしてしまわないように、声掛けをしてあげられるといいですね。
学年ごとの注意点
ここからは学年別に算数の基礎トレの取り組み方法について紹介します。
4年生の基礎トレ
4年生の基礎トレは、4~5問の計算問題と5~6問の一行問題で構成されています。一日の所要時間の目安は4分~8分です。
計算問題は整数のみの四則計算からはじまり、授業で小数・分数を習った後は小数や分数も含まれた計算問題へと少しずつスッテプアップしていきます。毎日続けれることで無理なく小数・分数の計算ができるように作られているのが特徴です。一行問題では、つるかめ算や過不足算といった特殊算から、場合の数・数の問題・平面図形・規則性など、サピックスの4年生の授業で習う単元の基礎的な部分の定着が図れるようになっています。
ノートに式や図を書くようにして解くのがベストですが、多くの4年生はまだまだ式をきちんと書くことができません。あせらずに「4年生が終わるまでにノートに綺麗に式が書けるようになるといいな」くらいの気持ちで見守ってあげるといいと思います。
5年生の基礎トレ
5年生の基礎トレはだいたい3問の計算問題と7問の一行問題で構成されています。一日の所要時間の目安は8分~12分です。
計算問題は4年生のころより複雑なものが多くなり、小数・分数・整数をそのときに最適な形に直しながら、工夫して解いていくことが求められるようになります。
一行問題では夏以降、習った比を使って解く問題が多く出題されるようになっていきます。数をこなしていかなければならない比の問題の基礎を、この基礎トレでカバーしていきましょう。
また、前述したようにノートにきちんと式を書いて解き進めるようにしていきましょう。特に4年生の間、縦書きの筆算ばかり書いて解いていたお子さんは、5年生の間に横書きの式を書けるようにして「計算の工夫」ができるように促してあげてください。
6年生の基礎トレ
6年生の基礎トレは3問程度の計算問題と7問程度の一行問題で構成されています。一日の所要時間の目安は10~15分です。
計算問題はサピックス偏差値50前後の学校で入試に出題されるくらいのレベル感です。最難関校を目指す生徒さんは「基礎訓練」として取り組みましょう。「どうしたらミスを防げるのか」「どのようにすれば効率よく見直せるのか、」といったことも考えながら取り組みたいですね。
一行問題は、入試に必要な基本的解法を一年間で網羅する内容です。解法に漏れがないようにきちんと取り組みましょう。
6年生の基礎トレは10月ごろまでは4日をひとつのサイクルとして問題が作られています。この4日は同じ問題の数値替えで構成されているので、まずは初日にじっくりと少し多めに時間をとって解法を確認し、2日目以降はスピーディーに解けるように意識して取り組むといいでしょう。
また月の後半は、その月の内容からランダムに出題されます。この後半の約6日間の基礎トレには難易度がかなり高い問題も含まれます。算数が苦手な生徒さんは、この6日間は今までやってきた基礎トレで間違えた問題の解きなおしをしたほうが効果的な場合もあります。月の後半の基礎トレに苦戦しているようでしたら、お通いの校舎の担当の先生に相談して、お子さんに最適な問題をセレクトしてもらってもいいかもしれません。
まとめ
サピックスの基礎力トレーニングは4年生から6年生まで36冊。少しずつ少しずつレベルをあげていって、お子さんが無理なく入試に必要な基礎力をつけられるような工夫がつまった素晴らしい問題集です。ぜひこの記事を参考に最大限の効果が得られるようにお子さんをサポートしてあげてください。
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